研究概要 |
本研究の目的は,防災意識の低い人に対して,地震災害が生じた場合の未来の感情反応を予測させることで,現在の地震災害に対する認知がどのような影響を受けるのかを検討すること,及び地震災害に対する認知変容を介して,防災行動に対するモチベーションがどのような影響を受けるのかを検討することである。本年度は,将来に起こりうる災害に伴うネガティブな感情反応の予測が防災行動に対する動機づけに及ぼす影響が,災害に対する関心の高さによって,どのように異なるのかを検討した。その結果,災害に対する関心の高さに関わらず,感情反応の予測を行うことで動機づけが高くなることが明らかとなった。われわれの認知傾向として,未来の出来事に伴って生じる感情反応の予測が強いインパクトバイアスという現象のあることが指摘されている(e.g., Wilson & Gilber,2003)。インパクトの強い未来の感情反応の予測が,現在の防災行動に対する動機づけに影響を及ぼすことが明らかとなったが,この影響は,地震災害に対する関心の高さに媒介されていなかった。すなわち,災害に関心が高い人だけでなく,関心が低い人でも,災害に伴う感情反応を予測することで,防災行動に対する動機づけが高くなることが示された。また,実際に防災行動を行っているかどうかを質問したところ,多くの人が実際に防災行動はほとんど行っていないことがわかった。この結果とあわせて考えると,実際に防災行動をほとんど行っておらず,かつ防災行動に対する関心が低い人であっても,災害に伴う感情反応の予測を行うことで,防災行動に対する動機づけが上がることが示唆された。この結果は,災害に伴う感情反応を予測することで,普段防災行動をあまり行わなく,かつ関心の低い人が普段行っている防災行動を改善する可能性を示唆する。これらの結果については,22th Annual Convention of Association for Psychological Science学会(於:ボストン)で報告を行った。
|