本研究は、一般の人々が抱く「素朴なスピリチュアリティ的信念」の存在について、実証的な検討を行い、その適応的な機能を検証しようとするものである。2年次となる今年度は昨年度から継続した300冊の文献研究を終了させ、頻出する概念として次の7つを確定した。1.肉体を超越した魂の存在・魂の永続性:「魂は死後も存続する」、2.因果応報(善因善果・悪因悪果)の原理:「自分の行った行為は最終的に、自分にはね返ってくる。良い行いには良い結果が、悪い行いには悪い結果がもたらされる」、3.心象の現実化・祈りの力:「心で念じる強い思いには、それに叶う現実を作り出す(引き寄せる)力がある」、4.神による守護や導き:「人は、神の力によって生かされ、守られている。それらの力は、人の人生を良い方向に導こうとしている」、5.天命・宿縁:「人には、この世で果たすよう定められた役割や、それに応じた試練や幸運、人との出会いがある」、6.輪廻:「人の魂は、この世界で生まれ変わりと死をくり返す存在である」、7.神の存在:「人知を超越した存在、万物・森羅万象の源となる力が存在する」。そして「7.神の存在」を除く、6種類の概念に対応する質問項目を作成し、成人500名(平均年齢33.4歳)を対象に質問紙調査を実施した。その結果、(1)6種類の概念にほぼ対応する因子が抽出され、下位尺度化できることが確認された。(2)各概念は既存の向宗教性尺度とも中程度の相関を示した。(3)「天命・運命観」や「因果応報」は「前世・来世観」や「魂の永続性」と比べ、統計的に有意に高い値を示した。(4)「女性は男性と比べ、全ての概念において統計的に有意に高い得点を示した。以上の知見は、従来の心理学研究(国内・国外)が詳しく検討することのなかった素朴な信仰心の内容を具体的に明らかにし、定量化した初めての成果だと言える。
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