本研究では、小集団が行う共同作業において、集団課題の特性に依存して他成員の顔が見えることの効果が異なることを実験によって検討した。 理論的予測によれば、「倫理課題」を集団で解く場合には他成員の顔が見えない場合でも、集団の課題達成成績は低下しない。一方で、利害の異なる者同士が唯一の結論を導く「交渉課題」の場合には、他成員の顔が見える場合にスムーズな合議が行われると予想される。以上の2つの課題を参加者内要因とし、3人一組のグループ20組を用いて実験を実施した。参加者はテーブルにコの字形に着席し、参加者間要因で視界の有無を操作した。「視界なし」条件では、参加者間を天井から吊るしたカーテンで遮った(ただし、テーブル上25cmは隙間が空いており、手元の作業や他者の体の向きは知ることがきた)。「視界あり」条件ではカーテンを吊るさなかった。また、各参加者グループは、課題特性の異なる2つの課題に従事した。実験の結果、論理課題においては視界条件にかかわらず集団課題の成績に差がないことが示されたが、交渉課題では仮説が支持されなかった。付随的な結果として、視界ありの場合に参加者の結果に対する満足感が高まることが示唆された。つまり、課題の達成成績には顔の有無が影響を与えるが、参加者の主観的な満足感は常に顔が見えている場合に高まると考えられる。これらの知見は、集団協調作業支援システムのデザインにおいて、集団の成績を高めるためにはユーザの姿を必ずしも高臨場に再現しなくても良い場合があり、課題状況に応じたシステムの変更が必要になることを示唆する。 今後は実験結果の信頼性を確認するための追試を行い、更なる検討を進めていく予定である。
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