本研究の目的は、母親が「母性愛」という社会通念を信じ込む傾向すなわち「母性愛」信奉傾向が、現実の養育場面においてどのように作用するのか、検証することであった。そのため、質問紙調査によってさまざまな要因との交互作用を中心に量的な検討を行いつつ、面接調査によって個人の語りを対象に質的な検討を行った。その結果、母親の養育態度に影響を与えるのは母親自身の「母性愛」信奉傾向だけではなく、パートナーである父親の「母性愛」信奉傾向や夫婦関係における満足度も重要であるということがわかった。さらに、以前すでに出産を経験している母親よりも調査時に初産である母親の方が、「母性愛」信奉傾向に関する語りにおける出産前後の変化が多くみられることも示唆された。
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