研究概要 |
Eriksonの心理・社会的発達理論における児童期(第IV段階)の位置づけを明確にするための文献展望を行った。具体的には, 第IV段階の心理社会的危機である「勤勉性対劣等感」および「コンピテンス」の概念に焦点を当て, 勤勉性の概念を測定する質問紙尺度の項目の内容を検討した。その中で「競争」と「回避」という表現に着目し, Eriksonの記述との整合性が検討された。同時に, 近年注目される「仮想的有能感」の生起メカニズムにおいて, 勤勉性の獲得失敗がその出発点になっている可能性について検討された。一方で, 勤勉性そのものよりも, 劣等感がその後のパーソナリティ発達に影響を与えている可能性が理論的に示唆された。勤勉性の獲得に失敗した場合, 必ずしも劣等感を持つとは限らないという指摘, あるいはむしろ劣等感を自覚することこそ炉勤勉性獲得への前提条件になるのではないかという論考など, 今後の検討課題が新たに設定された。 実証的な調査によるモデルの検討については, 大学生を対象とした調査, そして新たに高校生を対象とした調査の結果を分析した結果, 仮想的有能感が勤勉性の獲得失敗に由来し, 結果として青年期における自我同一性(アイデンティティ)の形成を困難にしていることが示唆された。これは本研究全体の構想の前提が実証的に確認されたことを意味する。また, 他者との関係性における安楽志向が仮想的有能感と関連していることが明らかになった。これらの結果は, 心理社会的なパーソナリティ発達と象代青年の多様な場面における行動傾向やその心性が密接に関連していることを示すものであり, 児童期の課題との関係から青年期を理解する新たな切り口を提供する上で重要な知見となる。
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