本研究は、保育園の園児のうち4歳を中心とした1年間を対象に、そこにいない人についての話題の発達研究を行った。本年度の主目的は園児たちが自発的に行う会話の中で、他者の話題を行うことを確かめることである。その結果、1. そこにいない他者についての話題の割合は4. 8%であった。2. 4歳前後の1年間ではこの内容の発話量に月齢変化がみられなかった。3. 明らかな男女差は認められなかった。さらに、そこにいない他者についての話題は自分に興味がある者から、相手に興味がある者へ発達的に変化がみられると予測していたが、予測された傾向は認められるものの、4. そこにいない他者の内容について有意な月齢変化は認められなかった。4歳児は心の理論が認められるようになってすぐであり、研究によっては心の理論が認められるのはもう少し成長してからとされる時期である。本研究は心の理論がまだ完成されていないと思われる時期においても、会話の相手と第3者についての話題を自発的に行っていることを示したという点において意義ある研究である。このことは、マキャベリ的知能仮説のなかの、音声によって社会的情報の交換を行うことがヒトにとって生まれながらの性質であり、ヒトの特徴であるとする考えを支持する。しかしながら、上記結論について他の可能性を排除するには十分なデータとは言えない。このため、誰と誰についての会話を行うのかなどについてのより詳細な発達的変化の分析が必要と思われる。上記結果の2. と4. はこの部分に対応するが、2. と4. の内容については計画作成当初から約2年間の縦断的なデータ収集を行ってから分析することとしており、2年目のデータ収集の結果改めて分析し、検討することになる。
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