本研究では、保育園園児を対象に、幼児が行うそこにいない他者についての話題(いわゆるうわさ話)の分析を行った。前年度の研究により、4歳前後の児でも他者についての話題を全会話中の5%ほど話すことが明らかとなった。しかしながら、4歳児は心の理論の理解が始まった時期であり、4歳もしくは、4歳に達する前に、うわさ話をするというのは驚くべきことである。なぜなら、うわさ話は、聞き手が知っている誰かについて、聞き手が知らない内容を伝えることによって初めて聞き手にとって有益なものとなるからである。これに対して、心の理論を獲得していない段階では、自分が知っていることは他の人も同じように知っているものとして振る舞う。そこで、本年度の研究では4歳前後の時期に、誰に誰の話題を話すかを分析することにより、心の理論獲得前にも聞き手にとって有用と思われる内容を話しているのかどうかについて検討した。もし、聞き手にとって有用でない内容を話しているのであれば、その段階では、話し手である幼児はうわさ話を行うことによって聞き手から感謝されるわけではないのにうわさ話をしてしまうことを示している。このことは、マキャベリ的知能仮説による、音声によって社会的情報の交換を行うことがヒトにとって生まれながらの性質であり、ヒトの特徴であるとする考えを支持することになる。一方、聞き手にとって有用な内容を話すことができるのであれば、4歳前後の児はこれまでの心の理論研究で明らかにされていたより他者理解について有能であることを示すことになる。研究の結果、52週(4歳2ヵ月)に達する前は、聞き手が知らないと推測される人物や人物を特定せずにうわさ話をしているのに、対して52週を過ぎると、聞き手の家族など、聞き手が知っている人物についてのうわさ話がなされるようになることが示された。
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