本研究では、保育園園児(4歳前後:42~57ヵ月齢)を対象に、幼児が行うそこにいない他者についての話題(いわゆるうわさ話)の分析を行い、幼児が他者をどのように理解しているか、また、幼児にとって会話によって情報交換を行うことがどのような意味を持つのかについて検討した。4歳児は心の理論(他者が自分とは異なる信念を持つことを理解すること)の理解が始まった時期であり、4歳に達する前に、うわさ話をするならば驚くべきことである。なぜなら、うわさ話は、聞き手が知っている誰かについて、聞き手が知らない内容を伝えることによって初めて聞き手にとって有益なものとなるからである。これに対して、心の理論を獲得していない段階では、自分が知っていることは他の人も同じように知っているものとして振る舞う。研究の結果、1.会話に含まれるそこにいない他者についての話題の割合は4.8%であった。2.4歳前後の1年間ではこの内容の発話量に月齢変化がみられなかった。3.明らかな男女差は認められなかった。4.誰についてのうわさ話をするのかを検討したところ、52ヵ月(4歳と4ヵ月)より後には相手が知っていると推測される者についてのうわさ話を行ったが、それ以前は相手が知らないと推測されるか、誰についてか特定せずにうわさ話を始めていた。これらの結果は、ことばが流暢になってすぐの4歳前後には、少ないながらも第3者についての話題を話すこと、第3者の話題についての発話量は、ことばや認知の発達に伴って増加するのではないこと、4歳になる前は聞き手にとって意味があるかどうかと関係なく第3者についての話題を話すことを示している。このことは、ヒトは第3者についての情報を会話によって交換するという、生まれながらの性質があると予測するDunbar(1996)の仮説を支持する。さらに、本研究の結果は心の理論を持つ時期になって、相手に有用な内容に話題が変化していったことを示しており、心の理論の発達時期について自然観察によって裏づけを与えた貴重なデータである。
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