昨年度は、独身者を対象としたアイデンティティおよび結婚に対する態度と、両親間不和の関連について検討を行った。本年度は、子どものいない有配偶者に焦点を当て、両親間不和によるアイデンティティへの影響を検討した。その際、父母双方との心理的距離、成人子自身の結婚生活の質(コミットメント)、主観的幸福感、親役割の獲得に関する認知等との関連についても着目した。 データの収集は、大阪府、京都府、兵庫県在住の20代、30代(学生を除く)を対象とするインターネット調査によって行われた。なお、分析では、両親がともに初婚で、現在も結婚生活を継続している若年成人479名が対象となった。 分析の結果、両親間不和は、アイデンティティとともに主観的幸福感や親役割の獲得に関する認知においても否定的に作用している可能性が示唆された。なお、両親間不和におかれた子どもは、自分自身が結婚した後も、両親のことが悩みの種であると認知している傾向が確認された。彼らの多くは結婚後間もない新婚期であったが、両親間不和にさらされている場合、自らの配偶者との関係性を形成する最中に、源家族の課題にも同時に取り組むことになるため、安定したアイデンティティや親役割獲得への積極的な展望をもちにくいのではないかと推察された。その一方で、親との心理的距離の文脈を考慮した分析から、両親間不和は親子関係を媒介として間接的に影響を及ぼしていることもうかがわれたため、今後より慎重に分析を重ねていく必要があると考えられた。
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