成人子を対象としたこれまでの調査研究では、アイデンティティデンティ発達と彼らの評価による両親間葛藤およびそれへの巻き込まれの関連について検討が重ねられてきた。それらの分析から、両親間葛藤による影響力は巣立ちを迎える前の青年期に比べると相対的に弱まるものの、成人期に移行しても両親間の不和に巻き込まれ、翻弄されている者が少数ながら存在し、さらにはそのことがアイデンティティ発達に否定的に作用する可能性が示唆されている。 そこで本年度は、成人子をもつ老親側の、夫妻間葛藤への子どもの巻きこみの認知について検討した。関連要因としては、夫妻間葛藤、結婚生活に対する評価、主観的幸福感、およびソーシャル・サポート(情緒的側面)などに着目した。対象者は自己と配偶者ともに初婚で、結婚年数が30年以上、子どもがすべて学校を卒業している有配偶者368名(男性:184名、女性:184名)であった。なお、男女のデータは個々に回収されたものであり、夫婦単位での協力ではない。平均年齢は男性が68.0歳(SD=5.0)、女性が64.5歳(SD=3.7)、結婚生活期間は平均40.3年(SD=4.8)であった。 分析の主な結果は、以下の通りである。(1)対象者の約15%の者が、自分たちの夫婦関係のことを心配している子どもがいると認知していた。(2)葛藤への子どもの巻き込みに関しては、これまでの成人子を対象としたデータに比べると、自分たちの不和に巻き込んでいないと考える傾向にあった。(3)葛藤への巻き込みが見られる場合、主観的幸福感が低く、結婚生活についての否定的評価が高いことが示された。(4)ソーシャル・サポートは葛藤への子どもの巻き込みに直接関連していなかったものの、結婚生活で生じた不和による子どもへの影響を緩衝する役割を有する可能性が示唆された。
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