研究概要 |
1. 研究目的 平成21年度の研究の目的は,他者の心の理解を反映する分配行動の個人差にいかに親子の情動制御パターンがいかに寄与するかを解明することであった。そこで特に,愛他的動機に基づく分配行動か否かをみる好み一致・障壁条件や,自らの欲求を抑制した分配行動か否かをみる好み不一致・交代条件と,親のかかわり方との関連性を検討した。ただ調査遂行の中で,親の現行のかかわり方よりも親の一貫した特性が子どもの他者の心の理解に大きくかかわる可能性に至り,また,親の特性と心の理解の関連性に関する議論が盛んになっている動向に鑑みて,親の愛着パターンと子どもの心の理解の発達との関連性を検討した。 2. 研究方法 (1) 分配行動;生後13~30ヶ月の子どもとその保護者が学外施設の個室内での調査に参加した。分配行動場面と親子のかかわり場面は録画され,本研究で定めた行動コーディングに従って子どもおよび保護者の行動を評定した。 (2) 心の理解:日本およびスリランカの幼稚園や家庭において生後40~85ヶ月の子どもにWellman&Liu(2004)の心の理論課題を参考にした課題を実施し,母親に愛着パターンに関する質問紙を実施した。 3. 研究成果 (1) 好み一致・障壁条件で,自分も実験者も好まない玩具を渡す子どもの母親よりも自分も実験者も好む玩具を渡す子どもの母親のほうが有意に親の子どもに対する感情コメントが多かった。子どもの愛他的な他者への分配行動促すものとして子どもの感情に対する親の注意・コメントが重要である可能性が示唆された。 (2) 日本においては,愛着恐れ型の母親ほどその子どもの心の理論発達が遅かった。またそれとは反対にスリランカでは愛着恐れ型やとらわれ型など見捨てられ不安の高い母親ほどその子どもの心の理論発達は早かった。日本とスリランカで子どもの心の理解に対する親の愛着の影響が異なることは今後検討の余地がある。
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