研究概要 |
本研究の目的は,1)抑うつにおける自伝的記憶の機能の特徴を明らかにすること,2)抑うつにおける自伝的記憶の機能間の関係を捉えること,3)抑うつの持続及び回復にどのように機能が作用するのかを明らかにすること,であり,今年度は1)の詳細な分析及び2)3)の検討・考察を行った。具体的には以下の通りである。 1.抑うつにおける自伝的記憶の社会的機能に関する研究 昨年度実施した調査について分析を行った。結果,抑うつ状態においてはネガティブなエピソードが想起されやすいこと,そもそも他者とエピソードを共有することに抵抗感が高いが,ポジティブなエピソードを語りたい場合には,他者からの共感・受容,カタルシスを求めている可能性が高いことが示唆された(第63回東北心理学会発表)。 2.抑うつにおける自伝的記憶の自己機能に関する研究 昨年度実施した調査について学会にて報告し(日本心理学会第73回大会),今年度さらに詳細な分析を加えた。結果,抑うつが高い大学生においては,「昔の自分」と「今の自分」を比較した場合,認知面に関しては一貫性や変化していない感覚を抱いているが,行動面・活動面において昔と今の違い・変化を認知しやすい傾向が示された(日本心理学会第74回大会発表予定)。 3.抑うつにおける自伝的記憶の機能間の関係及び抑うつの持続・回復に果たす役割について 大学生対象の調査について,人生曲線の分析から,自伝的記憶の機能について及びその感情調整について,現在より掘り下げた考察を進めているところである。また面接調査による縦断的研究については,第1回面接調査の準備が整ったところである。 以上,抑うつにおける自伝的記憶の機能について,新たな知見を得ることができたと考えられる。機能間の関連と感情調整,抑うつの持続・回復に果たす役割についてはまだ課題が残されているが,今後も特に上記3.について研究を進めまとめたい。
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