自閉性障害とアスペルガー障害は、社会的交流の障害・言語理解の障害・興味の対象の制限を臨床的特徴とする乳幼児期発症の精神神経疾患である。近年、凶悪犯罪を犯してしまった自閉性障害及びアスペルガー障害の成人の存在が、両障害に対する社会の関心を高めてきた。両障害ともに、幼児期においての診断が可能ではあるが、微かな兆候である場合は観過ごされ易く、言葉の遅れが目立たない場合は、成人に至るまで未診断のままということがありうる。その背景には、絶対的に不足している児童精神科医の数のみならず、時間がかかる成人の成育歴聴取や、マンパワーに余裕のない臨床現場といった実情も挙げられる。そこで、成人における自閉性障害やアスペルガー障害の可能性を、高い精度で評価出来、自宅や臨床現場における限られた時間内で、簡便に自己記入できる診断補助ツールの開発をすべく、米国のRitvoらが作成した診断補助ツールRitvo Autism-Asperser's Diagnostic Scale(RAADS)の日本語版作成に着手した。まず、pilot studyとして、RAADSを研究代表者が邦訳後、日英バイリンガルの精神科医が文章校正を行った上で、back-translationを翻訳業者に委託した。2名の翻訳者(内1名はnative-speaker)が英訳した内容をRAADS元版作成者のRitvoに返信し、内容の確認を行いつつ適宜修正を加え、これをRAADS-J(仮)とした。RAADS-J(仮)を、自閉性障害もしくはアスペルガー障害の診断がついている18歳以上の男性6名(ASD群)と、control群としての大学生49名に施行し、結果を分析した。ASD群の6名の総得点は全てcut-off値を超え、ASD群とcontrol群において、RAADS-J(仮)の総得点には有意差が認められた。また、RAADSの3つの下位領域[social relatedness/language and communication/sensorimotor and stereotypes]における内部一貫性も十分に保たれていることが確認された。この3つの下位領域毎の得点も、ASD群とcontrol群において有意差が認められた。その一方で、21個の質問においては、2群間を有意に区別するに至らなかった。そこで、次年度は、より理解し易いように更なる邦訳の修正をすべく、研究分担者・協力者とdiscussionを行い、modified RAADS-Jを作成する予定とした。
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