本研究は、心理的援助を行う専門家(以下、臨床家)同士、特に新人臨床家同士が研鑽し支え合う手段である「事例検討」の方法について、T. Andersenによって考案された家族療法の一技法である「リフレクティング-プロセス(5RP)」の応用を中心に、事例検討の方法の検証と改善を目的に定めた。平成20年度の研究では、事例検討の効果を事例発表者の経験という観点から検討することを目的とした。 臨床経験を持つ大学院生、および新人臨床家である被験者10名は、事例発表者としてRP形式、及び参加者全員が自由に話し合うことが可能な自由検討形式の2種類の検討会に参加した。検討会前後に、被験者は複数の心理尺度から成る質問紙に、また検討会後には、事例検討の満足度尺度や事例検討会で思い浮かんだアイディアについての質問に回答した。この実験の結果、両検討会において、被験者の発表ケースに関する否定的感情の低減が見られ、また相談の面接運営に関する自己効力感の向上が見られた。また、RP形式において、被験者は有益な、かつ/あるいは利用可能なアイディアをより多く得ていた。これらの結果から、リフレクティング・プロセスは新人臨床家同士で行う事例検討の方法として、優れた効果を有することが示された。 また、他の研究者から、「RPが変化を産み出すメカニズムに関する説明が乏しい。」との指摘を受けた。そこで、先行研究を調べたが、メカニズムの研究が皆無に等しいことが判明した。そこで、追加的にRPのコミュニケーションに関する研究を行った。その結果、事例発表者が他の参加者と直接やりとりできないRPは、直接やりとりできる条件よりも参加者の話題が多く産出されることが明らかとなり、その変化を産み出すメカニズムが明らかとなった。
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