近年の言語や認知事象に関する実験的人間行動分析の研究展開を背景にした、ACTと呼ばれるアクセプタンス・コミットメント療法の発展が急速な進歩を見せている。ACTでは、アクセプタンスを増大させることが肝要であるとされているが、本研究では、自己教示によってアクセプタンスを獲得し得るかについて検討を行った。 平成20年度は、社交恐怖傾向の改善を目的とした予備的介入実験を行った。参加者は社交恐怖傾向が高い大学生3名であり、プレテストにおけるFNE・SADSの平均値は、それぞれ24.7と21.0であった。実験はすべてシングルケースデザインで行われた。Aをベースライン条件、Bをアクセプタンス自己教示条件、Cを気そらし自己教示条件とし、参加者P1とP2はA→B、P3はB→C→Bの順で条件を導入してその効果を比較検討した。実験は1日1セッション、計10日間行った。実験では参加者に1日10分間のスピーチ課題を実施し、A条件ではスピーチのみ、BおよびC条件ではスピーチに先立ち、1分間の自己教示セッションを導入した。その結果、P1と2のスピーチ中の主観的不安感は、B条件を導入して以降、減少する傾向にあった。P3は、C条件よりもB条件のほうがより不安が低減する傾向にあった。また、アクセプタンスの傾向を測定する日本語版Acceptance and Action Questionnaire得点は、3名ともに得点が増加していた(プレテスト平均値17.0、ポストテスト平均値29.0)。社交恐怖傾向については、FNE・SADS得点が3名ともに減少していた(FNEおよびSADSのポストテストの平均値はそれぞれ、19.0と17.0)。これらの結果から、自己教示によるアクセプタンス獲得が可能であること、およびその臨床的有効性が示唆された。
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