本研究は、高不安者の有する注意バイアスを脅威情報に対する促進と固着の2つの成分に分けて捉え、注意バイアスの特徴を明らかにすることを目的としていた。平成20年度には、注意バイアスの促進成分を測定する課題としてAttentional Blink (AB)課題が有効であること、注意バイアスの固着成分に比べ、AB課題で測定される促進成分がより個人の主観的な不安水準を反映すること、不安の中でも社交不安については注意バイアスの促進成分を抑制する傾向があることなどが示された。 これらの結果を受け、平成21年度には高不安者を対象に治療的介入(集団認知行動療法)を施し、不安軽減に伴って特に注意バイアスの促進成分がどのように変化するかを検討した。対象は4年制大学において「プレゼンテーション不安軽減プログラム(以下、プログラム)」への参加を希望し、さらに実験参加に同意した大学生8名(男性6名、女性2名)であった。社交不安障害に対する集団認知行動療法を参考に、1回2~3時間、全6回、約2週間のプログラムを実施した。内容は、心理教育、リラクセーション技法の習得、認知再構成法の実施、プレゼン場面へのエクスポージャー、発表におけるスキルトレーニングから構成されていた。このプログラムの前後に、各種心理検査およびAB課題を実施した。 その結果、心理検査においては全ての検査でプログラム前から後にかけて、有意もしくは有意傾向の得点低下が見られ、主観的な不安水準が低下していることが確認された。AB課題の遂行については、プログラム前から後にかけて、脅威語に対してより注意が向けられるようになったことが示された。 この結果からは社交不安の軽減によって、注意バイアスの促進成分に対する抑制が解かれ、正常レベルの注意バイアスに復帰したことが推測される。さらなる検討が必要ではあるが、注意バイアスの促進成分の測定が不安の客観的測定に寄与しうることが一連の研究で明らかとなった。
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