社会不安者は、「他人は自分に対して嫌悪や侮蔑を感じているに違いない」という信念を持つことから、本研究では他者の否定的表情の呈示を合図する刺激(否定的表情に関する信念を活性化させる)に続いて呈示される表情刺激を社会不安者がどのように処理するか検討した。 対人不安尺度によって選別した高社会不安者と低社会不安者各10名を実験対象者とした。呈示刺激として、怒り表情と中性表情を、合図刺激として頂点が左右に向いた矢印(←、→)を用いた。この合図刺激の一方が呈示された後には怒り表情が、残りの一方が呈示された場合には中性表情が呈示されることを教示した。実際には、怒り表情呈示を合図する矢印の後に、怒り表情を80%の確率で呈示し、中性表情を20%の確率で呈示した。同様に中性表情呈示を合図する矢印の後には、中性表情を80%の確率で呈示し、怒り表情を20%の確率で呈示した。合図刺激呈示から表情刺激の呈示終了まで視線追跡装置を用いて視線運動を測定した。 実験の結果、高対人不安者は、中性表情よりも怒り表情における表情構成要素(目・口)への中止回数が少なく、表情に対する注意を抑制していることが示された。低対人不安者ではそのような差は認められなかった。怒り表情合図刺激の後に呈示された中性表情と怒り表情の間の視線データについて差は認められなかった。
|