研究概要 |
本年度は,子どもの目撃証言に焦点を当てた。事案に含まれる情報の相互作用によって,裁判員による目撃証言の信頼性評価のあり方がどのように変化するかを調べた。 一般的に,子どもの証言は,成人の証言に比べ,信頼性が低いと判断されやすい。しかし,現実の目撃事態において,証言の信頼性評価に結びつく情報が証人の年齢だけであるという状況は想定され難い。目撃から証言までの遅延日数や証人の確信度といった複数の情報が,同時に存在することを考慮しなければならないだろう。そこで本研究では,(1)証人の年齢に加え,(2)証人の確信度,(3)凶器に関する詳細な供述の有無,(4)目撃から犯人識別までの遅延日数の要因が交絡した事例を提示し,子どもの証言の信頼性がとのように評価されるのかを検討した。 その結果,(1)子どもの証言は,成人に比べて信頼性が低いと判断される傾向にあった。しかし,(2)"詳細な供述","高い確信度","目撃から犯人識別までの遅延が少ない"という情報を含む子どもの証言は,これらの情報を含まない成人の評言よりも信頼性が高いと判断された。子どもによる目撃証言の信頼性は,証言の信頼性と関連する他の要因との相互作用によって変化すると考えられる。 また,(3)確信度が証言の信頼性に影響を及ぼしたのは,詳細な供述が得られた場合のみであった。詳細な供述が得られなかった場合,確信度の高さは証言の信頼性に影響しなかった。このことは,上記(2)において子どもの証言の信頼性を高めた情報が,証言の信頼性に対して必ずしも独立に(加算的に)影響していなかった可能性を示唆する。証言の信頼性に及ぼす情報の影響力は,情報間の相互作用によって変化すると考えられた。 以上,昨年度までの研究成果と同様に,裁判員による認知的な情報処理のダイナミズムが,目撃証言の信頼性評価に強く関与する可能性が示唆された。
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