研究概要 |
実際の裁判と同様、目撃記憶の信頼性評価の根拠となり得る情報が複数存在する状況を設定し、裁判官および裁判員がどのような情報処理の過程を経て、目撃記憶の信頼性を評価するのかについて検討を行った。 まず、前年度までに行った実験結果を精査することで、目撃記憶の信頼性評価に関して市民が持つ信念(素朴理論)と,実証研究で得られた知見との相違を検討した。その結果、目撃記憶に関する実証的研究で指摘されてきた知見とは異なり、(1)証人の確信度が高いほど証言の信頼性が高いと判断される傾向や、(2)犯人が所持していた凶器について詳述できた証人ほど、犯人同定の信頼性が高いと判断される傾向が見られた。このことから、目撃記憶の信頼性に関する市民の素朴理論には少なからず誤信念が含まれていると考えられた。 次に、本年度に実施を予定している下記の研究計画に向けて、研究準備を行った。第一に、裁判官がどのような情報に基づいて目撃記憶の信頼性を判断するか検討する目的で、法学者の協力を得て、目撃記憶の信頼性が争点となった判例の収集を行った。第二に、これまでに得られた知見をより臨床に近い場面に敷衍して検討する目的から、映像刺激を用いた模擬裁判実験を行うための準備を行った。具体的には、石崎・荒川・若林(2010)で作成された公判映像刺激を用いて予備実験を行い、評議の進行方法、公判の背景情報、情報間の整合性等について検討を行った。
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