研究概要 |
視覚・触覚間の形態情報の統合に及ぼす外因性空間的注意の影響について検討した昨年度の結果を踏まえて,本年度は,注意定位のモードを外因性注意から内因性注意に替えた実験を行った。実験では,redundancy-gainパラダイムによる方位弁別課題に空間的手掛かり法を組み合わせた刺激事態を設定し,実験参加者が刺激の提示位置にあらかじめ自発的に空間的注意を向けた場合(valid試行)と向けなかった場合(invalid試行)とで,当該位置における視覚・触覚間の情報統合のあり方に差異がみられるかについて検討した。その結果,valid試行とinvalid試行ともに,情報統合の結果に起因すると考えられる有意な反応促進効果(redundancy gain)が認められた。また,両条件における効果量は同程度であった。この結果は,視覚・触覚間の形態情報統合は内因性の空間的注意が作用するよりも前の過程で生じているか,もしくは内因性注意の作用と独立に生起する可能性を示唆するものであるといえる。また,昨年度の知見を併せて考えると,形態情報の情報統合に及ぼす空間的注意の作用は,注意定位のモードに依存する可能性が指摘できる。 次に,初期知覚系における触覚表象が視覚表象と統合され得るか否かについても検討した。具体的には,視覚方位刺激の検出課題等でこれまでに報告されているフランカー刺激の文脈依存的な修飾が,フランカー刺激を触覚で提示した場合にも生起しうるかについて検討した。その結果,視覚方位刺激の検出閾は,同方向の方位をもつ触覚線分刺激がその両隣の位置に提示された場合,方位情報を持たないそれが提示された場合と比較して低下することを見出した。視覚刺激の検出に作用する触覚刺激のクロスモーダルな文脈的修飾効果を示した本結果は,初期知覚過程における感覚間統合作用の関与を窺わせる知見であると考えられる。
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