研究概要 |
本研究では、心理物理学手法を利用し、人間の文処理の時間特性について検討を行った。先行研究(Uetsuki, Maruya, &Sato, 2006)では、文を構成する文節の提示時間を短くした場合には文理解成績が低下すること、ならびに、長い提示時間条件下においても文理解成績が低下することが示された。このような傾向は、ガーデンパス文と呼ばれるタイプの文で確認されたものの、コントロール文では確認されなかった。本年度は、この原因について検討を行った。 長提示時間条件下において文理解が低下する要因には、主に以下の2つが考えられる。1つは、ガーデンパス文のみに含まれる文構造の再解析処理である。2つ目として、ガーデンパス文には文の離れた文節同士を接続する処理が含まれており、このことが原因となっている可能性も考えられる。そこで、この2つの可能性のいずれが長提示時間条件の文理解低下に関与しているのかを検討した。その結果、ガーデンパス文でなくとも、離れた文節同士の接続が必要とされる文では長提示時間条件下で文理解成績が低下する傾向が示された。従って、長提示時間条件下では記憶負荷が高くなるために、以前に提示された文節の記憶強度が低くなり、そのことによって正しい文理解が困難になっていることが示唆された。 また、本年度は、短提示時間条件における文理解精度を精密に検討し、文処理にかかる時間コストの定量化を行った。その結果、ガーデンパス文ではおよそ175ms/phraseが、コントロール文(非ガーデンパス文)ではおよそ100ms/phraseが必要とされることが明らかになり、離れた文節同士の接続があり、再解析を必要とする場合には、およそ75ms/phraseの時間コストが要求されることが示された。
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