本年度は、(1)先行研究で見られた長提示時間条件におけるガーデンパス文理解低下の原因の検討、(2)短提示時間条件における文理解精度を精密に検討し、文処理にかかる時間コストの定量化、(3)さまざまなタイプの文処理の時間特性を幅広く検討、という3つの目的を立てて検討を行ってきた。(1)については、記憶が長提示時間条件下におけるガーデンパス文理解低下の原因であることが明らかになっているが、一般的な動詞や名詞といった文節の内容の記憶は阻害されていないことが確認された。しかしながら、文中に出現する人名などの固有名詞の記憶順序が阻害されていることが明らかになった。 (2) については、昨年度、短提示時間条件の文処理パフォーマンスにマスキングの影響が現れている可能性について検討を行った。その結果、マスキングが生じているかどうか、明確に示すことができなかった。この問題については、来年度、更に検討を行う予定である。 (3) については、非常に処理が困難だとされる文を用いて検討を行った。その結果、このような文ではそもそも文理解の達成が困難であるため、文処理の閾値を測定することが困難であった。また、このように文理解のパフォーマンスが明確に上昇しきらないため、長提示時間条件下で文理解パフォーマンスの低下が生じているのか、あるいは低下が生じていないのか、判断することが困難であった。このようなことから、本年度検討した刺激文は、文理解の時間特性を検討には不適切であることが示されたといえる。そこで今年度は、若干文処理負荷の低い文を使用して、検討を行う予定である。
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