研究概要 |
本研究の目的は,目撃証言場面において,目撃者の抱く感情が,言語陰蔽効果の生起に対して,どのような影響を及ぼすかを明らかにすることである.言語陰蔽効果に関する研究は,目撃証言研究としての位置づけを持っていながら,これまで,感情という重要な問題を扱ってこなかった.実際に,事件や事故に遭遇した場合,目撃者は驚きや恐怖といったネガティブな感情を抱くことが多いと考えられる.したがって,本研究では,特に,ネガティブな感情に焦点を当てて,言語陰蔽効果に対する感情状態の影響を検討した. 昨年度行われた実験について,その結果が,当初の仮説や既存の理論的説明と完全に合致するものとは言えなかったため,本年度は,昨年度および一昨年度の実験データについて,その信頼性を評価することを主な目的として,詳細な分析を行った.具体的には,ネガティブな感情を喚起された実験参加者の感情状態の評定スコアが,実験の各セッションでどのように推移しているかを確認するとともに,感情状態の評定スコアと再認率,あるいは,感情状態の評定スコアと修正再認得点の関連などを中心に,詳細な分析を行った. その結果,これらの分析によって,実験データの信頼性が一定以上担保されることが確認された.つまり,実験データや実験手続きに問題があるというよりも,むしろ,仮説の設定や解釈可能性について,再考の余地があることが示唆された.そこで,新たな解釈可能性を考えるため,文献研究を行うと同時に,研究者間で議論を行った.その結果,理論的枠組みを修正することによって,実験結果に対する新たな解釈可能性を導出することが可能となった.
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