研究概要 |
他者の表情に対する模倣的な表情応答が, どのような心的過程と関係しているかを, 心理生理学的に検討した. 刺激として, 怒り・幸福の表情を, 動画・静止画で呈示した. 課題として, まず刺激の受動的注視を求めた. この間に, 被験者の顔面を表情筋筋電図及びビデオ録画で記録した. その後, 各刺激について, 情動経験および情動認識の評定を求めた. 評定の方法として, 先行研究(Sato & Yoshikawa, 2007 : Journal of Nonverbal Behavior, 31, 119-135)と同様に, 情動価-活性度の2次元尺度を用いた. また, 課題終了後, 共感性人格質問紙について記入を求めた. 教示として, 電極は皮膚電気活動を計測するものだというカバーストーリーを呈示し, 表情応答を被験者に意識させることなく計測した. 表情筋筋電図及びビデオ録画の解析の結果, 動的表情に対して, 静的表情に比べて模倣的な表情表出がより顕著に表出されることが示された. 動的表情に対する表情筋筋電図の活動と情動経験および情動認識の関係を共分散構造分析を用いて解析した結果, 幸福表情の場合に, 表情表出が情動経験を生み情動経験が情動認識を導くという因果モデルが支持された. こうした結果から, 他者の表情に対して模倣的に表情応答するという行動が, 観察者に同調的な情動状態を生じさせ相手の心的状態の理解を促進するという, 適応的な役割を持つことが示される.
|