研究概要 |
動的表情に対する表情反応と心理反応の関連の解明を目的として,心理学研究および脳画像研究を実施した. 心理学研究では,表情筋筋電図と心理評定との対応の解析を行った.怒り・幸福の動画・静止画の表情を受動的注視中の表情筋(皺眉筋・大頬骨筋)筋電図活動と,情動経験および情動認識の評定(情動価・活性度)との対応を調べた.相関分析および共分散構造分析の結果,幸福表情の動画条件において,口角を動かす筋肉の活動が,自分の情動経験における覚醒度に正の関係にあり,この自分の情動経験の覚醒度が他者の情動評定における覚醒度に正の関係にあることが示された.こうした結果から,表情模倣反応が,情動反応および情動評定に関係することが示唆される. 脳画像研究では,こうした表情反応-心理評定の神経基盤を調べる実験を実施した.恐怖・幸福の動画・静止画の表情を受動的注視中の脳活動をfMRIで検討した.その結果,上側頭溝・扁桃体・下前頭回といった部位において,静止画に比べて動画に対して高い活動が示された.こうした部位間の関係を心理生理相互作用解析および動的因果解析で調べたところ,領域間に機能的結合があることが示された.こうした結果は,動的表情に対する視覚分析・情動反応・表情模倣反応の神経基盤を明らかにし,それらが関係し合っていることを裏付ける. こうした結果は,他者の表情を見て表情を模倣し,それが自分の情動の喚起および他者の理解につながる心のメカニズムについて示唆を提供する.
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