研究概要 |
今年度は、高齢者の注意機能のなかでも、特に顔刺激からの注意の解放における加齢の影響について検討した。注意にはある対象を捕捉する過程ばかりでなく, いったん捕捉した対象から注意を解放する過程も含まれる。亀井・坂田・熊田(2006)は高齢者を対象に注意の捕捉を検討し, 線画による顔刺激への反応は文字刺激より速く, 解像度の低い周辺視の段階でも処理が可能であることを示唆した。そこで本研究では, 実験1として, 高齢者でも捕捉の速い顔刺激を注視刺激として呈示した後ターゲット刺激を左右どちらかに呈示し, その検出にかかった反応時間を基に顔刺激からの注意の解放に関する加齢の影響を検討した。また, 顔刺激からターゲット刺激が呈示されるまでの時間を操作することで, 解放過程における促進の効果についても検討した。その結果, 高齢者は時間間隔が長くなると解放が促進される効果が若齢者よりも大きく, 顔刺激からの注意の解放がそうでない刺激よりも速いことが示唆された。若齢者の反応時間には注視刺激の違いはみられなかった。続いて実験2では, 顔刺激の表情による注意の解放の違いを検討したが, どちらの年齢群にも表情に違いによる反応時間の差は見られなかった。注意の解放における加齢の影響は、線画を刺激に用いた場合では表情の違いの効果は小さいことが示唆された。今後は刺激に写真などを用いてさらに検討する必要がある。これらの研究は論文としてまとめられ、「発達心理学研究」誌に掲載・公表された。
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