研究概要 |
私たちは,さまざまな対象に興味を持つ。しかし,興味はなぜ生じるのか,興味を感じている状態とはどのようなものかといった基礎的な理解は十分に進んでいない。前年度の研究では,難易度を3段階に操作したコンピュータゲーム(テトリス)を大学生に行わせ,そのときの主観的・生理的反応を記録した。参加者が楽しく集中できたと回答した条件(難易度中・高)において,脳波のシータ帯域パワーが前頭部で増大し,振動プローブ刺激に対する事象関連電位の振幅低下が認められた。今年度は自律神経系活動を分析したところ,難易度の高い条件でのみ,心拍数と皮膚コンダクタンス水準が増大していた。このことは,興味に対応した生理的変化は自律神経系よりも中枢神経系の指標に表れやすいことを示唆している。次に,大学生12名にさまざまなビデオクリップ(映画の予告編)を見せて,そのときのプローブ刺激に対する事象関連電位と背景脳波の分析を行った。その結果,興味を持って映像を見ているときは,内的処理が亢進し,外界刺激に対する応答性が下がるというこれまでの知見を支持する結果を得た。さらに,対象の新奇性-複雑性と理解可能性が興味に及ぼす効果を検討するため,大学生20名にランダム多角形を見せる実験を行った。複雑性(12,24,48角形)と有意味性(図形が何かに見えるか否かを予備調査で尋ねて高低に分けた)を操作した120枚の図形を好きなだけ長く見せ,その後に各図形に対する主観的興味の程度を質問紙で尋ねた。その結果,(1)注視時間は複雑性が高いほど長くなるが有意味性の高低によっては変化しないこと,(2)主観的興味は複雑でかつ有意味性の高い刺激に対してもっとも高くなることが示された。一連の研究を通じて,興味は多面的な現象であり,それぞれの側面を主観的・行動的・生理的指標を併用することによって検討するのが望ましいことが示された。
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