研究概要 |
跳躍眼球運動(サッカード)による網膜像の移動によって,外界が動いて見えることはない。このことは,サッカード時に視野の安定を保持する機構が働くことを示唆している。近年,この視野安定が失われる新しい現象を報告した(光藤,2008,日本視覚学会夏季大会)。両眼で輝度差のある静止刺激をダイコプティックに呈示し,それを見ながらサッカードを行うと,一方の眼の像は静止して見えるがもう一方の眼の像はサッカードに伴って動いて知覚される。光藤・中溝(2009,日本認知心理学会大会)とMitsudo & Nakamizo (2009, 32nd European Conference on Visual Perception)では,この運動錯視がサッカードによる見えの抑制で説明できるかを検討するために,刺激呈示中に刺激の一部を短時間変化させ,その検出率を測定した。その結果,さまざまな刺激条件で類似したサッカード抑制がみられた。したがって,光藤(2008)が報告した運動錯視は従来から知られているサッカード抑制では説明できず,視野の安定にはいまだ知られていない視覚過程が寄与していることが分かった。 また、前年度発表した回旋輻輳実験の結果に基づき、両眼立体視一般の理論モデルにおける1ステップを洗練させる着想を得て、計算機による立体視のシミュレーションを行った。結果は人間の特性と定性的に一致するものであり、この結果は光藤(2009,九州心理学会第70回大会)および光藤(2010,九州大学心理学研究)で発表した。
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