研究概要 |
知覚学習は、人の生存に不可欠な機能であり、実験心理学上の一大テーマである。本研究課題は、この問題を処理効率の観点から検討する一連の研究構想の中に位置するものである。 日常生活における知覚学習、特にパターン学習では、人は、同時に学習すべき複数のパターンにさらされる場合が多く、さらにそれらパターン間では、学習の必要性の度合いが異なることもある。このような複雑な学習環境に対して適応的に行動するためには、学習の際に利用可能な情報処理資源(リソース)の量や質によって、その学習方略を巧みに変更する必要があるであろう。例えば、加齢に従ってワーキングメモリが低下することが知られているが(Craik, 2000)、このときの適応的な学習方略は、若齢者のものとは異なると予想される。本研究課題は、複数パターン同時学習事態における効果的な学習方略について、特に高齢者の知覚学習にその成果を応用することを視野に置いて検討するものである。 今年度の研究では、実践的研究の準備段階として、学習のためのリソース量と最適な学習方略の種類の関係の理論的検討を行った。具体的には、ベイズ学習に基づく理論的学習者のパフォーマンスを、理論的計算並びにモンテカルロシミュレーションを用いて算出した。その結果、同時に覚えなければならないパターン数とリソース配分方略の関係には、ある種のトレードオフが存在することが示された。このことから、リソース量が限定された時には、注意コントロールが重要な要素になることが予想される。また、複数パターン同時学習と単一学習との比較についても、予備的な実験とシミュレーションによって検討し、その結果、リソース量が限られる場合ではあっても、複数パターン同時学習が、学習効果保持に有効に働く可能性が示唆された。この点については、来年度以降、さらに検討を進める予定である。
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