知覚学習は、人の生存に不可欠な機能であり、実験心理学上の一大テーマである。本研究課題は、この問題を処理効率の観点から検討する一連の研究構想の中に位置するものである。 日常生活における知覚学習、特にパターン学習では、人は、同時に学習すべき複数のパターンにさらされる場合が多いが、その際、パターンを分類することによって、より効率的に多数のパターンを学習することができると考えられる。実際の生活場面で観察するパターンは、2次元の普遍な網膜像ではなく、物体の動きや観察者の動きに伴って変化するパターンであることが多い。本年度の研究では、これらを分類するにあたって有効な手がかりとして、本研究では網膜像の変化に内包される規則性に着目した。そして、この規則性を学習し、パターンの分類を行なう際の人間のパフォーマンスについて、強化学習に基づく計算論的学習者(Q学習に基づくコンピュータシミュレーション)を一種の理想的学習者として想定し、その、成績と人間の成績とを比較することによって検討を行った。モデル形成型およびモデル非形成型の計算論的学習者との比較を行なったところ、人間の成績は、非常に単純でかつ、それほどメモリ容量の大きくないモデル形成型の計算論的学習者の成績と類似していることが明らかになった。このことから、人間が観察世界における規則性について内的なモデルを非常に効率よく形成しこれを利用していることが示唆された。
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