平成20年度は、脳機能画像撮像の前段階としての行動実験を主に行った。物体認識における左右大脳半球機能差を検討するために、新奇物体を刺激として、半視野瞬間提示法を用いて実験を行った。その結果、物体の定性的情報(主軸がまっすぐか、曲がっているかといった情報)に注目するか、定量的情報(主軸の長さは何センチか、といった情報)に注目するかによって、左右大脳半球が処理優位性を示した。すなわち、定性的情報に対しては左半球が、定量的情報に対しては右半球が処理優勢を持つことが示唆された。新奇物体を用いた研究で左右大脳半球機能差を示したはじめての実験であり、脳機能画像による皮質間ネットワーク構造を検討するための手がかりとなる結果である。 また、物体認識の前提となる視覚記憶に関する脳機能画像研究を行った。視覚記憶における情報統合について、後頭葉から頭頂葉、前頭葉の関わりを検討した。実験では、連続提示される視覚刺激を、記憶内で統合することによって課題を遂行できる、欠落ドット検出課題、非対称性検出課題を用いた。課題遂行時の脳活動をfMRIによって撮像した結果、刺激の提示間隔によって、統合に関わる視覚記憶が変化し、視覚的感覚記憶が皮質の活性の持続として認められること、視覚短期記憶に頭頂葉後部と前頭前野が関わり、その役割が異なることなどが示唆された。さらに統合失敗時には、統合に関連する部位の活性が低下することなどが確認された。この結果は同じ視覚的統合という現象であっても、刺激提示間隔によって神経基盤が変化することを示唆する。行動実験に組み合わせて、脳機能画像研究を行う意義を示した研究といえる。
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