物体の定性的情報と定量的情報に基づく物体の内的表象形成について、左右大脳半球を神経基盤とするモデル構築を目指し研究を行った。半視野瞬間提示法を用いた行動実験によって、物体構成部品の定性的、定量的関係情報に対する左右大脳半球機能差を検討した。その結果、定性的情報に対する左半球処理優位性、定量的情報に対する右半球処理優位性が示された。この結果は、物体の内的表象がすべての情報を均等に含む単一のものではなく、物体が含むどのような情報を重点的に符号化すべきかという認識目標に応じて形成されることを示唆する。これは物体内的表象がボトムアップではなくトップダウン的にも形成されることを示している。なお、この結果はBrain and Cognition誌に掲載された。また、このような左右大脳半球機能差は、物体構成部品の関係性だけではなく、物体構成部品自身の定性的情報、定量的情報を操作した実験でも認められた。すなわち、空間関係情報処理だけではなく視覚情報処理全般において定性的、定量的情報処理に対する左右大脳半球機能差が存在することが示唆された。このような左右大脳半球機能差がどのような神経基盤によって実現されているのかをfMRIによって検討した。その結果、定量的情報処理において右半球の頭頂葉後部と側頭葉下部が情報をやりとりしている可能性がDCM分析によって示唆された。物体の内的表象が特定の脳部位で担われているのではなく、左右大脳半球を含め、脳内の様々な部位の連携に柔軟な表象形成が行われることが示唆された。
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