唾液中のデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)や硫酸基結合型DHEA (DHEA-S)によるストレス評価の可能性を検討するために、平成21年度は急性ストレス事態におけるDHEA・DHEA-S濃度の変動を検討した。65名(男性53名・女性12名)の大学生を対象に急性ストレス負荷として、ストレス課題(スピーチ・暗算)を実施した。ストレス負荷前に2回、負荷中に3回、負荷後に5回の唾液採取を行い、同時に主観的なストレス度もVisual Analogue Scale (VAS)によって測定した。得られた唾液からDHEA・DHEA-SをELISA法によって測定した。統計的分析の結果、主観的なストレス度は課題時に上昇し、急性ストレス負荷の妥当性が確認された。DHEA・DHEA-Sはストレス負荷に対し濃度が上昇し、DHEAは1時間後も濃度が有意に上昇した状態であった。一方で、DHEA-Sは、課題後は速やかに課題前の値に戻った。これらのことから、DHEA・DHEA-Sは急性ストレスに対して比較的敏感に値が上昇し、とくにDHEAはストレスの影響が比較的長く観察されることがわかった。平成20年度の長期的ストレスの検討の結果と併せて考えると、DHEAは日常場面でのストレス評価には適している可能性が考えられる。DHEA-Sについては長期的ストレスの検討では、心理指標との相関もみられたことから、今後もその有用性について検討を続ける必要がある。唾液試料は血液と違い、非侵襲的に採取でき、医師でなくても採取可能であるため、本研究で扱ったDHEAやDHEA-Sはストレスの評価やストレス関連疾患の予防を考える際に簡便な指標といえる。今後の応用分野での利用が期待される。
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