研究概要 |
本研究の目的は,思い出そうとする意図がないにもかかわらず,記憶がふと浮かんでくる現象,すなわち無意図的想起(小谷津・鈴木・大村,1992)の認知メカニズムを,これまで用いられてこなかった中断法を利用することにより解明すること,および日常場面における無意図的想起を制御するための知見を得ることにある。平成21年度には,無意図的想起の頻度を規定する要因に関する実験的検討と,無意図的想起の生起メカニズムに関する理論的考察を行った。無意図的想起頻度を規定する要因としては,利用できる認知的資源の量や,方向付け課題の処理の種類,想起時に活性化されている記憶表象の種類などを取り上げ,それらを操作することが,過去や未来の事象に関する無意図的想起頻度に及ぼす効果を中断法により検討した。その結果,少なくとも無意図的想起が生起したことが報告されるためには,十分な認知的資源が必要であることが示唆された。この結果は,平成20年度に本研究で得られた知見からの示唆や近年のマインドワンダリングに関する研究(e.g., McVay & Kane, 2009)からの示唆の正当性を裏づけるものである。本研究でこれまでに得られた研究結果や国内外で蓄積されつつある無意図的想起やマインドワンダリングに関する知見に基づき,無意図的想起がどのようなメカニズムにより生起するのか,無意図的想起が他の認知過程(e.g.,展望的記憶)とどのように関わるのか,無意図的想起を支える記憶表象とはどのようなものか,などについて説明することができるモデルに関する考察を行った。
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