研究概要 |
本研究の目的は,思い出そうとする意図がないにもかかわらず,記憶がふと浮かんでくる現象,すなわち無意図的想起(小谷津・鈴木・大村,1992)の認知メカニズムを,これまで用いられてこなかった中断法を利用することにより解明すること,および日常場面における無意図的想起を制御するための知見を得ることにある。平成22年度には,無意図的想起の生起頻度・内容に関わる要因に関する検討と,無意図的想起の認知メカニズムに関する考察,及び無意図的想起の制御法に関する考察を行った。無意図的想起の生起頻度や内容(未来の予定の記憶,過去の出来事の記憶)に関連する要因について検討を行ったところ,展望的記憶課題の失敗傾向と,未来の予定の無意図的想起頻度との間に有意な相関が見られることが示された。近年,未来の予定の無意図的想起が展望的記憶課題の遂行とどのように関わっているのかに関する知見が蓄積されつつあり,無意図的想起が展望的記憶課題の遂行に対して促進的な効果を持つ場合と抑制的な効果を持つ場合があることが示されでいる。それらの知見と本研究で得られた結果とを考えあわせると,無意図的想起の認知メカニズム,特に予定の記憶の無意図的想起を支える認知メカニズムには,展望的記憶課題の遂行を支える認知メカニズムと共通する部分が存在することが考えられる。展望的記憶課題の遂行を支える認知メカニズムの核となるものとして,自発的想起の過程が挙げられるが,自発的想起に影響することがこれまで示されている要因の操作が,無意図的想起にも影響を与えるのかについて検討することが,無意図的想起の頻度や内容を制御する上で重要になるものと考えられる。
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