研究概要 |
本研究の目的は,偶発学習事態における潜在学習パラダイムに基づき,認知行動場面における適切な行動制御を可能にする学習方略を特定し,主に健常高齢者への技能習得支援に有効な訓練手法の確立に向けた基礎的データを収集することである。平成21年度は健常高齢者を対象とした心理物理実験を行い,若齢者のデータとの比較から,トップダウン的方略(教示によって指示される課題遂行時の方略)の違いによる高齢者の潜在学習特性について,以下の2点を中心に検討した。 1. 学習方略に即した高齢者の空間的注意の配分および注意の制御能力 視覚探索課題において,空間的配置の探索が能動的か受動的かというトップダウン的方略の違いと探索処理効率の相互作用について検討を行った。非効率的探索処理が生じる刺激条件において,若齢者では刺激の空間的配置を受動的に探索する方が探索効率は高いとされる(Smilek, Enns, Eastwood, &Merikle, 2006)。高齢者を対象にした同様の事態での実験の結果,先行研究と同様に,高齢者の場合でも刺激の受動的な探索によって探索処理時間は短縮された。学習方略に関わる空間的注意制御は加齢に関係なく適切に行われることが明らかになった。 2. 高齢者の空間的注意の配分および注意の制御方略が空間的配置の潜在学習の発現に及ぼす影響 視覚探索課題に基づく視覚的文脈の潜在学習パラダイムにおいて,刺激の探索方略が視覚的文脈(空間的配置の規則性)の獲得段階に影響するのか,利用段階に影響するのかについて検討した。若齢者の場合,学習段階での受動的探索が文脈学習の生起に重要であったのに対し,高齢者では,学習時の能動的探索が学習の生起に重要である可能性が示唆された。探索方略が潜在学習に及ぼす影響は,加齢に伴って劇的に変化することが明らかになった。
|