本年度は、光トポグラフィ装置(近赤外分光法 : Near-Infrared Spectroscopy(NIRS))を用いて、健常成人と健常乳児を対象に、健常者の顔認知の発達についての基礎的なデータを記録、解析した。成人9名、6〜8か月の乳児21名の記録を行い、成人8名と乳児13名から、解析条件を満たすデータを得ることができた。 この実験では、普通の顔写真と顔の部位の配置が正しくない顔を見ている時の、Oxy-Hb、Deoxy-Hb、Total-Hbの変化を調べた。その結果、乳児と成人では脳血流変化のパターンが異なることが確認された。この結果は、発達初期において、すでに顔認知の優位さが存在すること、成人における顔認知の血流反応が発達初期とは異なることを示唆している。この違いは発達過程で顔の情報処理に関わる脳活動が変化、発達することを裏付けており、このことは行動学的研究から報告されている、顔認知能力の熟達化と関連があると考えられる。この解析結果は論文にまとめ、現在、脳科学の菌際雑誌に投稿している。 また、この実験を通し、乳児の脳活動発達変化を調べるのに光トポグラフィ装置が有用であること、実験者の指示を理解できない乳児を記録する際の問題点、成人と乳児を比較する際の問題点などが多く浮上した。この問題は、これらを克服するような実験計画が今後の発達研究を進めるにあたり、必須であると考えられる重要な知見であるといえる。 研究実施計画で予定していた被験者数よりも、実際に記録できた人数は少ないものの、研究は予定通り進めることができている。
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