日本の社会教育・生涯学習における学習支援者の力量形成は、フロント・エンド・モデルから、生涯学習への転換が求められている。その際は、省察的実践者としての能力開発に、ひとつのモデルを求めることができる。本研究では、北アメリカで実践の省察を核とした成人教育者の能力開発を実践的に研究する、パトリシア・クラントンに手がかりを求めている。 研究二年目となる平成21年度は、おもにクラントンの実践の記録から、実践の理論の展開を確認することを試みた。 カナダのニューブランズウィックコミュニティカレッジでは、新任インストラクターに一年半のインストラクター能力開発プログラム(IDP)を実施している。特長は「成人教育について成人教育的に学ぶ」、成人教育者の能力開発プログラムである。7コースからなるプログラムのうち、その特長をもっとも反映しているのが、クラントンが担当するコース「成人教育の方法と方策」である。IDPの二年目におこなう対面式のコースで、クラントンは約25年間にわたって実践を続けている。 この実践についてふり返って記した論考をクラントンは発表している。本研究ではその論考を手がかりに、クラントンの実践の理論-実践の中から理論を作る-の展開を考察した。これまでクラントンの実践は、翻訳書で部分的に紹介されていたが、ひとつのコースの流れをふり返ったものはない。 考察の結果、(1)IDPのコースにおける実践の理論として意識変容の学習が導き出されている、(2)教育者として意識変容の学習が生じうるきっかけをつくることが重要である、(3)成人教育者の能力開発に取り組む者にとっての実践の省察の意味-実践の理論を確認する・展開するが実践的に明らかにされている。以上三つは、実践的研究者としてのクラントンの立場を立証するものあり、日本の社会教育・生涯学習における学習支援者の力量形成に、実践的な示唆を与える貴重な成果である。
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