本研究は、日本の社会教育・生涯学習における学習支援者の力量形成のあり方を、省察的実践者としての能力開発に求め、北アメリカで実践の省察を核とした成人教育者の能力開発に取り組む、パトリシア・クラントンの実践的研究を検討してきた。最終年度の本年度は、残された二つの課題に取り組みつつ、三年間の研究成果報告書を作成した。 一点目の課題は、クラントンがペンシルベニア州立大学で取り組む成人教育者の能力開発である、成人教育D.Edプログラムに関するものである。本研究の目的のひとつに、このプログラムでの博士論文研究が、いかにおこなわれているかとその意義を解明することがあった。ペンシルベニア州立大学図書館ホームページのTHE CATより、クラントンが論文指導を担当した大学院生の論文検索と論文閲覧が、可能であることがわかった。そこで、こちらを活用して調査と考察を進めた。その結果、現場での実践の省察として展開され実践を発展させているという意味で、省察的実践研究であることが明らかになった。他方で、実践者としての自己のありようについての省察は弱いとわかった。 二点目の課題は、昨年度現地調査を実施した、ニューブランズウィックコミュニティカレッジのインストラクター能力開発プログラムについて、プログラムの受講者を対象にインタビューをおこなった。それを通して、どのような学びが生じたか、現場での実践を省察する機会をどのように経験したかなどを、受講者の視点から明らかにした。 成果報告書の作成にあたっては、現在または将来大学や大学院で社会教育・生涯学習の支援者の能力開発を担う大学教員に向け、作成することを意議した。大学は社会教育主事基礎資格の付与等で、支授者養成に取り組んできている。しかし、日本社会教育学会社会教育・生涯学習関連職員問題特別委員会『知識基盤社会における社会教育の役割』(2008)にあるように、「実践と省察のサイクルを組み込んだ生涯にわたる力量形成」を担っていくことは、「海外の動向を含めた研究開発」が望まれているからである。成果報告書は、この点に呼応するものとして作成を試みた。
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