研究計画に基づき、第五高等中学校に関する先行研究および関連文献を収集するため、熊本大学五高記念館(熊本市)における現地調査、国立国会図書館(東京都)における関連文献調査を実施した。また史料調査に合わせて1880年代教育史研究会の例会や教育史学会第52回大会に参加して研究者からの情報収集に努めた。 調査においては第五高等中学校創設時の九州各県の姿勢の把握を意識し、高等中学校を創設する際に九州各県の連絡協議のため、九州各県の尋常中学校長及び各県学務員などで組織された「相談会」の史料を中心に分析を行った。当該史料は行政面での各県の動向をうかがい知ることのできる重要な史料であり、地域において形成されつつあった五高観を理解するための基幹史料といえる。 第五高等中学校の創設時に関する既刊図書としては『習学寮史』(習学寮史編纂部編、1938年)と『五高五十年史』(第五高等学校開校五十年記念会編、1939年)がある。『習学寮史』においては当時の新聞記事を用いて建設地の決定や生徒募集の状況を中心に述べ、『五高五十年史』は森文部大臣の政策意図や野村初代校長との関わりについて示すなど特徴があるが、両書はともに同校の帝国大学の予備教育機関としての位置づけをアプリオリに受け入れ、時代の制約に囚われて五高観の形成過程に関心は払われていない。 「相談会」の史料分析を中心とした今年度の研究を通じて、第五高等中学校が野村校長の前任校である第一高等中学校を基準として忠実に制度設計を行おうとしていること、またその中でも「地方ノ情況」に応じた教育課程を用意しようとしたこと、そして何よりも九州各地の尋常中学校との接続に関して並々ならぬ関心を抱いているこたことが明らかとなった。 これらの活動の中間報告として中国四国教育学会第60回大会において研究報告を行ない、同学会紀要に研究成果として史料紹介を行った。
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