研究概要 |
博物館における巡回展は、館同士の連携協力を促進し、少ない予算・知力・労力・時間をかけることなく、入場者数がある程度見込めるメリットがある。本研究では、博物館における展示のうち、常設展示とは異なる特徴・可能性をもつ巡回展示に関する現状・動向を分析し、実際に巡回展「クジラとぼくらの物語」や茶箱や蚊帳を活用した宅配便サイズの巡回展の開発と、二カ国以上が参加する巡回展のあり方を模索した。下記に得られた結果を要約する。 ・これまでの日本の巡回展は、平成12年に開催された「弁当からミックスプレートヘ」などの巡回展示など革新的な巡回展も存在するが、共有できるデータベースなどがないため日本における巡回展示学も実践も育ちにくい。米国のTraveling Exhibition Databaseのように、巡回展の規模、テーマ、コスト、保険など全ての情報が蓄積され、多くの人がアクセスできるデータベースの構築が望ましい。 (http://www.informallearning.com/database.htm) ・巡回展は、大型で輸送費・保険代金なども高いものが多いが、全国のほとんどの博物館は大型の特別展示室を持ち合わせない中・小規模の博物館である。こうした状況を考慮して、宅配便で輸送可能であり、箱をあけてそのまま設営できるお茶箱と蚊帳を活用したクジラ・サンゴ展示を開発した。2010年度は、全国8箇所開催55,000人の入場者数を記録したが、異なる館との連携の際には、お互いが得意な分野の展示を担当することで新しい切り口となることもわかってきた(沖縄県立博物館・美術館での「造礁サンゴ展」への回遊展「サンゴ蚊帳展示」の協力展示の事例より:(例)標本展示とハンズオン展示で協力)・二カ国以上が参加する巡回展の在り方:海外への輸送費高が問題になる場合が多いため、中小規模のミュージアム同士でも開催可能な「絵ハガキ/ポストカード交換(シカゴ・チルドレンズミュージアムと協力)」による連携や、参加型サンゴ展示(ニットでサンゴを編んでいくワークショップを機軸とし、できた作品を展示として投入:Institute for Figuring, LAと連携)などを企画・実施した。
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