これまでに収集した資料、地方自治体を対象として実施した「学力調査の展開と大学の役割に関するアンケート」から得られた調査データ、インタビュー等の記録を整理し、データベースを構築した。このデータベースを用い、地方自治体による学力調査のプロセス評価を行い、事業推進組織、事業の展開過程について類型化を試みた。 分析の結果、概ね以下のような知見が得られた。(1)学力調査の事業推進組織の構成員として、地方自治体は少なからず大学・短大の人的資源を、主として教育委員会等の教育行政関係者、既知の大学の研究者からの紹介を通して動員している。(2)地方自治体によって大学・短大の人的資源を動員できる環境に大きな格差があり、規模が大きい地方自治体ほど地域内に大学・短大が立地する傾向にある。(3)地方自治体の規模は、事業推進組織のみならず、事業の展開過程にも大きな影響をおよぼしており、規模が大きい地方自治体ほど、全国学力・学習状況調査とは別に独自の学力調査を定期的に実施し、予算規模も大きい。ただし、学力調査の実施にかかる費用負担が問題になっているのは規模が大きい地方自治体である。(4)学力調査から得られたデータを分析する観点については、地方自治体の規模や事業推進組織に大学・短大の人的資源を動員しているかどうかとほぼ無関係であった。(5)学力調査の展開過程においてローカル性が認められるのは事業推進体制のみで、学力調査の設計や結果の活用についてはローカル性が殆どない。 これらの知見からは、地域のニーズに応えて各地域が選択する地域ごとの最適状態としての「ローカル・オプティマム」を問う機制が現在の日本社会から失われている可能性が示唆される。また、学力調査の内容・方法と活用の在り方、そして実施にかかる諸コストの負担が、今後検討されるべき課題であることが明らかとなった。 以上の研究成果については、日本高等教育学会第13回大会(関西国際大学)、日本教育学会第69回大会(広島大学)において報告した。
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