本研究では、美術館と公共性の関わりについて、美術館建築による開放性の創出に着目しながら考察することを目的とする。 本年度は、前年度までの研究成果を基礎としながら、美術館建築と透明性の問題について、公共性の保障に留意しつつ、開放性の創出との関連から理論的に考察した。特に、美術館建築と透明性について建築学的な側面から分析したが、美術館建築に関する透明性は、美術館建築を構成する透明な素材から生まれるだけでなく、空間と空間、美術館内部と外部、美術館建築と来館者といった関係性の提示や美術館活動の内容や美術館建築の在り方と密接に関わりながら生じていることを明らかにした。また、前述の透明性が美術館に対する信頼関係の構築に関与するとともに、美術館や美術館建築の開放性の創出や公共性の保障に寄与する側面があることも明示した。 次に、美術館建築による開放性の創出について分析する具体的な視点として、本年度は、美術館の周辺地域への影響に関して、美術館とリノベーションを中心に考察した。そのさい、テート・モダン(Tate Modern)、プンタ・デラ・ドガーナ(Punta della Dogana)、入善町下山芸術の森発電所美術館等の事例調査を実施した。特に、リノベーションされた美術館建築の周辺地域への影響について、美術館と既存の建築物の歴史性、美術館へのコンバージョン、美術館としてのリノベーションと地域再生の三つの観点から考察した。さらに、美術館としてのリノベーションによるサイトスペシフィックな性質の顕示にも注目した。その結果、美術館としてのリノベーションが美術館建築の開放性の創出に寄与するだけでなく、周辺環境・周辺地域との関係構築にも密接に関わっているため、公共性の保障につながることも明らかにした。 以上の研究成果については、論文や学会発表の形で公表を行った。
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