平成20年9月ならびに平成21年2月に、ドイツ・ベルリン教育史研究史図書館所蔵の手稿を調査した。その中には、当時のフレーベル評価に関わる書簡や、フレーベルによる教授科目「自然誌」構想を見いだすことができた。それらを読解すると、フレーベルは自然諸科学の教授においてリンネを参照したことが明らかになった。リンネは植物を雄しべと雌しべの数・構造によって分類する「性体系」を提唱したが、この「性体系」的な戦略こそフレーベルの教育思想・実践構想の基盤である球体法則観と親和性が高いように思われる。1811年の球体法則観にあってフレーベルは「婚姻」という語を用いている。球体法則観は彼の認識論でもあるが、そこで「婚姻の中にのみ、完全な学問は存在する」「婚姻は、同分母の結合である」という命題も掲げている。「婚姻」という暗喩はキリスト教的世界観の特色である。これまでの先行研究においては1811年以降の球体法則観に則った教授構想に関しては十分な考察ができなかった。しかし、フレーベルがリンネの分類法を参照したことが明らかとなったことで、彼の教授構想に関する新たな分析枠組みを見いだすことができた。言い換えれば、フレーベルは自然諸科学の分類として敢えて「性体系」的な要素を加味することにより、教授において観察を促す契機を捉えたのである。その点において、フレーベルの「自然誌」教授構想は18世紀から19世紀への転換期における世界観の表現方法のひとつでありつつも、実物教授の深化・展開をはかったといえよう。
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