本研究課題は「近代日本における児童教育雑誌の成立と読者共同体の成立過程に関する研究」であり明治期以降にわが国に登場した児童教育雑誌がいかなるかたちで作成され、それが子どもの読者を通じてどのような影響を与えたのかについて分析を試みるものである。昨年来から明らかにしようとした課題についても、1)「明治期から昭和戦前期に発刊された雑誌を考察し、雑誌の特徴を分析しその特徴を明らかにする」については、昨年度に引き続き大正期から昭和戦前期に焦点をあてた雑誌読者分析を進めてきた。(『幼年の友』・『幼年世界』・『少年世界』・『少年界』・『小学少年』・『小学少女』等)すべての刊行雑誌の分はでなかつたのの、明治期以降の読者像・読者意識の性格や特徴については、「国家主義」の思想と「良妻賢母」・「立身出世」思想めメルクマールとして結びついていることが多く、愛読者仲間とともに勉学、優秀作品投稿など互いに切磋琢磨することで絆を深めた。女子読者は特有の「女性言葉」を使用することで、仲間意識を高め、共同体の形成につながっていった。当初の研究目的についてはおおむね明らかにするととができた。2)「明治期から昭和戦前期における『子ども読者』の年齢層およびその特徴を明らかにする」ことについても明治期から昭和戦前期までにかけて大方幼稚園児(3歳)から小学校高学年(10歳)ごろまでの読者が多いことが分析より明らかになった。3)「想像上の『読者共同体』の形成過程を考察し、その特徴について明らかにする」ことについては、大正期から昭和戦前期にかけて発刊された児童雑誌の多くは、多くの読者を獲得しながら、自然に「読者共同体」を形成していることがわかってきた。また男子読者・女子読者によって共同体の特徴が異なる点や結束力の強さの違いについても明らかにならた。また「児童読者」については、わが国においては明治期からすでに存在し、おもに「少年」に近い意味で使用されていたこと、さらに大正期以降になると、とりわけ「小学生以上の少年・少女」を指すものに変化してくることも児童雑誌分析より見いだすことができた。今後は成果報告書の作成に方全を期すと同時に、近代の少年雑誌・少女雑誌の読者分析についても行うことを課題としたい。
|