本研究は、文化戦争以降のアメリカ合衆国の歴史教育の内容を把握し、1960年代以降に女性が獲得した社会や家庭での新たな役割がそこにどのように表現されているのかを分析するものである。2009年度も、研究計画に即して以下の2つの課題を設定して研究活動に取り組んだ。(1)前年度にデータベース化した1980年代以降現在までの主要な歴史教科書の内容を分析する。とりわけバックラッシュ以降のジェンダー概念の扱いに注目しつつ、教育的知識としてのその概念の可能性について考察する。(2)文化戦争以降のアメリカの歴史教育の動向について、「多様性を尊重する多文化主義思想」と「社会の凝集性を重視する保守主義思想」との相克と止揚の観点から探索する。さらにその知見に照らして、日本においても進行しつつある社会の多文化化とそのもとでの教育内容の変容を、比較教育社会学的に考えるための有効な基盤を得る。 (1)については、データベースをもとに内容の分析を進めた。その成果は、『共生教育学研究』第4巻に掲載された研究ノート「ポストバックラッシュのジェンダー概念にみる教育的知識としての可能性-多文化共生を促す教育的知識の探索」で発表した。<特定の価値の擁護や、特定の価値に基づいた歴史像の再構築をするのではなく、価値が争われる点を提示することで、あるカテゴリに付与された社会的意味を吟味させる語り口>が教育的知識において採用されていることの意義を析出した。(2)については、書籍その他の資料の探索と分析を進めた。その成果は、筑波大学IFERI共同セミナー《共生をめぐる問題系の確認と展開》の「ネイションと教育」部会における報告「歴史教科書問題とその「克服」にみる<ナショナルヒストリー>の桎梏」で発表するとともに、研究誌『リスク社会化環境における共生社会論』『共生をめぐる問題系の確認と展開』等に掲載された諸論文で発表した。
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