初年度となる平成20年度は、二度の台湾現地調査を実施し、関連資料の収集、現地研究者との意見交換を行った。南一、康軒、翰林の3社を中心に、現在使用されている小・中・高校の人文・社会各教科の検定教科書を体系的に収集するとともに、かねてより所有していた1960〜90年代の国定教科書の整理を行い、国定教科書と検定教科書の比較研究を行う準備を整えた。本研究の主題である2000年代の検定教科書にみるナショナル・アイデンティティに関しては、当初の計画通り、国民中学『社会』教科書から分析を開始し、その成果の一部を平成20年11月の日本国際教育学会第19回大会で発表した。 また、上記学会発表のほか、学会口頭発表1件、論文発表1件および書籍の刊行を行った。日本比較教育学会第44回では、台湾における中等教育の多様化について、特に学校形態の多様化に焦点を当てて論じた。『海外事情』第57巻1号所載の論文は、馬永九新政権の教育政策と中台関係を論じたものである。同論文は直接的な教科書分析ではないが、筆者の過去の研究が示す通り、政権交代と中台関係は台湾の教科書の内容は、教科書の変化に影響をあたえる要因である。したがって、同論文の執筆を通じて得られた知見は、本研究にも寄与するところを含んでいる。2009年2月に刊行した単著書『戦後台湾教育とナショナル・アイデンティティ』は、国民中学「公民と道徳」の国定教科書に関する研究をまとめたものである。本研究の前史として、上述の国定教科書と検定教科書の比較研究の基礎となるものである。
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