研究概要 |
ユニバーサルアクセス段階への移行期に到達したわが国の高等教育システムでは、これまでシステムの制度的態様を暗黙裡に枠づけてきた「学位制度」もまた転換期を迎えている。とくに(1)ユニバーサル化によい質が多様化(低下)した学士課程教育の意義をどう再構築するか、(2)伝統的な専門職以外の職業を志向する新たな専門分野における学位をどう扱うかの2点が政策的論点となっている。本研究は、わが国より早くユニバーサル段階を迎えた米国において登場した新しいタイプの学士学位"applied bachelor"(応用科学学士)の生成プロセスとその後の展開状況を取り上げ、わが国の学位制度が検討すべき課題と改革の方向性を明らかにすることを目的としている。 平成20年度は、文献調査およびインターネットによる情報収集を通じて、"applied bachelor"課程を開設している機関、根拠となる州法・行政規則の把握など、"applied bachelor"の展開状況の整理(データベース化)を行った。その結果、2008年現在、39州(78%)において"applied bachelor"課程が開設されていること(うち16州は2000年以降の開設)、さらに10州において、従来は学士の学位授与権を有さないコミュニティカレッジ等の機関が"applied bachelor"を授与していること、1州の例外を除きいずれも1990年代半ば以降の新たな展開であることなどが明らかになった。米国における"applied bachelor"課程は基本的に成人学生を対象としたプログラムであり、専攻分野のみならず学習課程や教授方法において伝統的な大学の学士課程とは異なる点が多い。しかし米国においても実際のオペレーションに関する研究は十分なされてはいないようである。わが国の高等教育システムに独自の文脈を考慮しつつ,比較可能な側面を析出することが今後の課題である。
|