本研究は、児童生徒の相手意識と文章表現との関連性について、発達的観点及び国際比較の観点から解明することを目的としている。1年目である本年度は、日本とイギリスの2カ国の小中学生を対象とした調査・分析を中心課題としていた。しかし、相手校との日程調整の都合、研究代表者の体調悪化等により、調査が次年度に延期となった。そのため本年度は当初の計画の一部を変更し、以下に示す3点の調査・研究を行った。 1. 相手意識と文章表現に関する国内外の文献を収集し、作文指導における「相手意識」概念について、日本と海外(特に欧米)での差異について調査した。その結果、欧米の作文教育における「相手意識」は、文章構成や表現戦略等の評価枠組みとして機能する傾向があるのに対し、日本の作文指導では、書く動機付けや内容決定に関わる概念として扱われる傾向にあることがわかった。 2. 日本の国語教科書(小中学校用、過去20年分)における作文単元を調査し、どのような「相手(読み手)」が設定されているかについての調査を行った。その結果、学年段階に応じて次のような傾向が見られた。低学年では比較的親しい相手に向けて書く活動が設定されており、これは書くための動機付けや書く事柄を準備させる要因として位置づけられる。学年が上がるにつれ、疎遠な人物や架空の人物など多様な「相手」が設定されるが、これらは手紙文形式の学習や物語読解といった学習目標の過程として機能していることが明らかになった。 3. 上記2点の成果をふまえて、研究代表者がこれまで行ってきた調査結果を再検討した。相手(読み手)の親疎の違いによって、児童生徒の作文がどのように変化するかを調査したデータを見直し、特に「疎遠な相手」というカテゴリーは、その属性の差がほとんど作文に表れないのではないかとの問題意識を新たに得た。この点については、次年度の調査課題に反映させ、確認する予定である。
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