本研究は、児童生徒の相手意識と文章表現との関連性について、発達的観点及び国際比較の観点から解明することを目的としている。最終年度である本年度は、過去に行った日英両国での作文調査のデータをもとに、小学生の相手意識の実態について国際比較を行った。また、文章に表出される相手意識が、どの程度メタ認知されているのかについても調査を行い、一定の結果を得た。具体的な成果は、以下の通りである。 (1)日本人児童と英国人児童(ともに10~11歳)に対して行った作文調査から、相手意識の表出には以下の共通点があることがわかった。(1)語レベルでの言い換えを行う、(2)色や絵を使用して書き分ける、(3)文量を調整する。これに対し、日本人児童にのみ見られた傾向としては、(1)相手の属性のうち、男女差の方をより強く意識する、(2)相手の属性によって想起された文章を新たに付加する、といった事実が確認された。これらのことにより、相手意識を持つことによる言語表現の調整行動は、日本人児童の方により多様にみられることがわかった。 (2)日本人児童のみを対象に、作文調査後に「振り返り用紙」への記入を行った。それらのデータから、相手意識を持つことによる文章表現の調整が、どの程度メタ認知されているかという点について分析した。その結果、漢字を中心とする表記上の調整や、色・絵等の視覚上の調整についてはメタ認知されていることがわかった。しかし、文レベルの調整や内容上の調整については、明確な振り返りはなされていない。相手意識を持つことによって少なからず書く事柄が調整されるにも関わらず、その点についてはメタ認知されていないことが明らかになった。 これらの成果から、これまでに提案してきた相手意識の発達過程に関する仮説モデルの一部が検証された。しかし本調査で得られた成果の多くは、小学校児童のデータを中心としたものである。中学生から大学生に至るまでの、より幅広い年代のデータを得ながら、引き続き検証を行っていきたい。
|